書籍情報
評価 | |
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購入形式(紙・Kindle・Audible) | 紙のみ |
出版社 | アスカエフプロダクツ |
試し読み | 可能 |
紹介ページの充実度 | 詳しくない(Amazon紹介ページ) |
著者名 | 野口敬 |
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執筆時の年齢(出版年-生まれ年) | 55歳(2005年出版-1950年生まれ) |
関連サイト | 公式のwebサイト見つからず |
著者の職業 | パソコン専門紙編集長、人材派遣会社主任企画部員、システムインテグレーション会社企画本部長などに従事。1991年、創造性開発・評価の手法を普及させるためにコミュニケーション・クリエイティブ・センターを設立。意識のしくみだけでなく、社会のしくみもわかりやすく解析する「フレームアナリスト」として活躍中 |
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経験・キャリアなど執筆背景 | うつ経験 |
過去の著作点数 | 10点以下(主にパソコン関連本) |
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前作から本書発行までの経過期間 | 「良いほうに考える技術」より約3年 |
刷数・発行部数 | 2005年10月31日 初版 2010年6月4日 第90刷 |
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書店などのランキング情報 | 情報なし |
謙虚さ | 非常に丁寧で優しい語り口 |
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他書からの引用、参考文献 | 見当たらず |
誤字・脱字 | 特に気づかず |
タイトルと内容のギャップ | 問題なし |
感想
2005年に初版発行されてから、重版を重ねた本書(2012年8月時点で104刷)。
ビジネスパーソンが抱えるストレスが問題として取り上げられ始めた頃は、(自身がうつ経験のない)医者や教授によって、医学的な視点で書かれた本ばかりであった。
しかし、本書は著者自身がうつで苦しみ克服した、ビジネスパーソンとしての経験をもとに書かれているだけに説得力がある。
悩み多き現代において、我々現役世代に救いの手を差し伸べてくれる大変貴重な本だと思う。
なるとしの主張
前半は「うつ」になりやすい人の特長とポジティブ視点での解説、後半は「うつ」な状況になった時の対処法がメインである。
前半は非常に説得力があるが、後半は医者ではないから【治療法】という域には達しておらず、経験者による【アドバイス】と捉えた方がいいかも知れない。
しかしながら、サラリーマン経験のない医者が【治療法】や【アドバイス】について書いたところで、実際の仕事でどう対処して良いか分からない、というのがメンタルヘルス本を読みあさった私の感想である。
『論語』の中にも【中庸】(ほどほど)が肝心だという話がある。
情報量の飛躍的増大や何かと変化が著しい現代において、「ベストよりベター」、「6~7割のクオリティで進める」といった仕事のやり方が主流となっており、【完璧主義】というワードがネガティブに受け取られることが多い。
【完璧主義】が悪いのか? いや違う。
「うつ」になりやすいタイプの私から言わせれば、ごく自然に【ほどほど】にできたり、何の躊躇いもなく【手を抜く】ことができるタイプの人の行動と完璧主義者の行動は、似て非なるものと思う。
なぜなら、結果的に同じように「ほどほど」のさじ加減で仕事に取り組んだように見えても、「うつ」になりやすいタイプの人は、真面目にとことん考え抜いた上で、【完璧に】手を抜き、【完璧な】アバウトを目指した結果であるからだ。
辛いマイナスの経験も、【完璧に】にプラスの経験に変えてしまう人間。
それが「うつ」になりやすいタイプの人なのである。この意味、理解いただけるだろうか・・・(たぶん「うつ」になりやすいタイプの人にしか共感されないだろうが)。
ピックアップ
「うつ」になりやすい人の特長と成功の条件
「はじめに」で著者はこの本を書いた意図を次のように紹介している。
「うつ」にかかりやすい人とはどんな人でしょうか。まじめで繊細、責任感が強く、妥協せず真っ直ぐに生きようとするタイプがとても多いのです。でも、こうした特長こそ、まさにどんな仕事をやらせてもうまくいく、「成功の条件」ではないでしょうか。 だから、ここで、はっきりと宣言できるのです。
「うつ」な人ほど強くなれる、と。
この本では、「うつな人ほど強くなれる」根拠を、自分の体験を踏まえて、さまざまな視点から解き明かしました。つらい「うつ」ですが、克服したときには一段と強く生まれ変わっています。それを実感していただけると思います。 「うつ」はつらいけど、それを通じて「かけがえのない価値」を得られる・・・。この大事なポイントをご理解いただければという思いを込めて、この本をまとめました。
パラリンピックに出場した車椅子マラソンの土田和歌子選手がブログの中で、こんなメッセージを残していた。
「私は交通事故に遭った時、どうして私が?という気持ちになっていました。しかし、障害をもったことがきっかけで競技スポーツの世界に入って、ここまで成長してこられたんです。そういう意味では、ひとつの可能性を失ってしまったかわりに、もうひとつのチャンスを与えられたのかもしれません」
活躍の場の違いはあれど、辛い経験をポジティブに見つめ直して克服したという点は同じであろう。
成功の条件 (p60)
著者は「うつ」になりやすいタイプの人を「とてもまじめで、誠実で、繊細。責任感が強く、大きな夢を持ち、妥協せず真っすぐに歩む-まさに信頼できるタイプの人」とした上で、これらの特長を持ち合わせた人は「成功の条件」を持った人だと述べている。
- 大きな夢と大きな目標を持っていること
- 直面する課題から逃げず、いい加減にそらさず、その一つ一つを着実に克服すること
- 大きなプロジェクトであればあるほど、次々に壁につきあたる。そんなとき、問題を一歩ずつ解決し、成果を得られる道を切り開く力
- 芸術の分野では、自分の心に浮かんだイメージを大切にはぐくみ、全霊を傾けて完璧な作品に仕上げる力
- 科学技術の領域では、自分の発見した事象をとことん究明し、 新しい法則や新しい技術を発見する力
織田信長ほど、戦にあたって臆病なくらい繊細で慎重に物事を運んだ武将はいない。 (p54)
と述べるあたりは少々強引かも知れないが、「うつ」になりやすいタイプというのは、確かに成功する要素を兼ね備えたタイプなのかも知れない。
「うつ」になることで得られる収穫
「うつ」になる人は弱い人なのでしょうか?とんでもない誤解です。本当に強い人は、大変慎重です。ひょっとすると臆病に見えるくらい繊細で慎重に物事を運びます。臆病だからこそ、何かにつけ徹底的に計画を練ります。慎重に裏づけを取り、失敗しないように緻密に戦略を立てます。 (p53)
そう、身を粉にして働き、神経をすり減らして【限界】まで働いてしまうのだ。そしてプツンと糸が切れてしまう・・・ でもそれを克服した時、大きな収穫を得る。
「うつ」を経てきた人は、他者に対する優しさを持っています。自分が味わったつらさや苦しさがまじまじと思いだせるから、つらさや苦しさを抱える人たちに対してとても優しくなれます。つらさ苦しさが自分の痛みとしてわからないと、人に対する思いやりや優しさは生まれにくいものでしょう。本当の強さとは、その中に大きな優しさが含まれていると誰もが知っています。「うつ」をくぐり抜けてきた人は、その苦しくつらい体験の代償に大きな優しさを得るのです。 (p57)
「うつ」をくぐり抜けると、今までどうしてもできなかった「アバウトさ」が少しできるようになります。不思議なことに、絶対に見過ごせなかった「他人のいい加減さ」をささやかですが許容できるようになります。 (p76)
病んでしまったらもう今まで通り【限界】まで働けない・・・ だから、フツーの人がいつもやっている【手抜き】をせざる得ない。
つまり【アバウトでいい加減】にならざる得ない。
私もそうでだったが、これが「うつ」になりやすいタイプの人にとっては、なかなか受け入れられない。
でも仕方ないと受け入れることができると一歩前進。
自分もラクになるし、何より自分ができないのに、他人を責めることができなくなるから、いい意味で丸くなる。これが「自分ができないことを相手に要求する無神経なタイプ」との違いである。
「うつ」かなと思ったときに
仕事における「うつ」になる
シチュエーション (p174)
・ その忙しさがどれほど続くのか、いつ終わるのかもわからない
・ これだけ一生懸命にやっても、その努力が報われる保証がない
・ あまりの忙しさに、仕事上のミスが多くなり、その責任を深く感じている
「うつ」を自分で見抜く
「セルフチェックポイント」(p126)
・ 心の疲れが抜けない
・ 不安が長続きする
・ 何をしていても頭の中から問題が離れない
・ 自分を責める
・ よく眠れない
・ 何かをやろうとしても体が動かない
心を強く取り戻す
リハビリの手順 (p140)
① 頑張った自分をほめてあげよう
② 誠実な自分をほめてあげよう
③ 繊細な神経を持つから「うつ」になると知ろう
④ 「うつ」を克服したときには、とても強くなれることを知ろう
⑤ 周りに「うつ」の人がいたら絶望する必要などまったくないことを伝えよう
⑥ むしろ「うつ」にかかった人こそ、より強く生まれ変われることを知ろう
⑦ 今は苦しいけど、この苦しさを克服したらすごく楽に生きられることを知ろう
ストレスがより深く心に蓄積すると、その人は無意識のうちに自分の心を自分で責めはじめるようになってきます。(略)
どれだけ考えても解決できないと、どうしても問題を解決できない「無力で情けない自分」に追及の矛先が向けられてしまいます。(略)
「申し訳ない」「すまない」とぼそぼそ言うようになった場合は、危険な「心の赤信号」です。心のコントロールがすでに失われてしまい、自分ひとりの力では心のコントロールを取り戻せない段階にまで病が進んでいます。
もしも、そんな感覚を少しでも持っていると感じたら、すみやかに専門医をたずね、疲れた心を落ち着かせてくれる薬を処方してもらいましょう。 (p132)

