「けがをしてよかった」と言えるか?
元プロテニスプレーヤーの松岡修造氏は、著書『弱さをさらけだす勇気』で「けがをしてよかった」という話をしている。それはなぜか?
その理由は、練習や試合に戻ったときの “幸せ感” があるからです。僕も、けがや病気から復帰したとき、再びコートのなかを走り回ってボールを追えることに大きな喜びを感じました。それまでは、テニスをするのは当たり前のことだったけれど、その「当たり前」ができることが、どれだけ幸せかに気づけたのです。
出典:『弱さをさらけだす勇気』松岡修造/講談社
他にも「けがをしてよかった」理由として以下も挙げる。
- けがで練習や試合に出ないことが強制的な休養となる
- 普段できないこと、テニスのために我慢していたことができる
松岡氏はこの期間を「ミニ引退」と呼び、ピンチではなく「チャンス」だと述べている。
同じテニスの錦織圭選手も、2017年8月から翌年1月までの約5ヶ月間、右手首のけがにより「ミニ引退」を余儀なくされ
これを機に、積極的に専門家に自分の体を細かく診てもらい、いままで使えていなかった筋肉や、もっと鍛えなければいけない部分を明確にして、柔軟性や体幹の重点的な強化に取り組んだ……
これまでの思うようにいかないランキングに対するプレッシャーから解き放たれて、「テニスが好き」「ランキングだけがすべてじゃない」と前向きに感じられるようになった……
そんなエピソードも本書では触れられている。
では、心が疲れ切ってしまっている場合に当てはめたとき、この教訓をどのように活かせばいいのだろうか?
どん底からの再スタートは不運ではない!
続いてもう一つヒントとなる事例をご紹介したい。
元フィギュアスケート選手の鈴木明子氏は、著書『壁はきっと超えられる』で、大学生の時にひとり暮らしを始めた途端、摂食障害になってしまった経験を明かしている。
過剰な体重管理がきっかけで、身長161センチの鈴木氏はこの時、わずか32キロになってしまい、スケートどころか歩くのもままならなくなってしまったそう。
そんな鈴木氏に母親はこんな言葉をかけていたそう。
「スケートも大学もやめてもいい」
「また滑れるようになっただけで幸せじゃない」
鈴木氏はこの母親の言葉で
「大好きなスケートが滑れるようになっただけでじゅうぶん。あとはオマケのようなもの」
とポジティブに考えられるようになったのだ。
そしてようやくふっきれた鈴木氏は、6歳から身につけてきたスケートの技術をあらためて学び直そうと決める。
すると、練習に対する考え方や姿勢が変わり、プラスに作用したのだ(詳しくはこちらで紹介)。
ケガや病気が自分を見つめ直すきっかけになる。いや「きっかけにする」という意思かもしれない。
こう考えると、少しは今の辛い状況に対しても前向きになれる気はしないだろうか。
「生きているだけでいい」という気持ちになれるか?
今まさに、白血病からの復帰をめざす競泳の池江璃花子選手が、鈴木氏と同じような境遇に置かれているのかもしれない。
忘れもしない、2019年2月12日。
Twitterで自ら白血病を発表。連日のように報道されるニュース映像。
ご報告です。 pic.twitter.com/zP2ykLRgCD
— 池江 璃花子 (@rikakoikee) February 12, 2019
ショックで胸が苦しくなった。
私は小学1年生から水泳を始めて、現在もマスターズスイマーとして細々と現役を続けているので、彼女の凄さはよく分かる。
あの活発で明るいキャラクターも大好きだった。
実は、このニュースが飛び込んできた時、私は病床の母のそばにいた。
池江選手の発表前日の2月11日。
くも膜下出血で倒れた母が意識不明の重体で病院に搬送された日。
結局、母は3日後の2月14日に息を引き取ったのだが、この時ほど
「生きているだけで有難い」
という言葉の意味を痛感したことはなかった。
まさに自分以外の人間の死に向き合った3日間。
大切に思う人に生きていて欲しいと思う気持ち
これが心を病んでしまっている人に効くヒントになるかも知れない・・・
「病気になってよかった」ときっと言える!
自死にまでは至らなかったものの、私自身うつで消えてなくなりたいと思ったことがある。
しかし、熟慮の末にわかったことは
「死ぬ」ということは「生きる」ことよりも難しい
ということ。
これは自死を実行する自分と関わっている周囲にとっての両方の意味である。
もし大切な人がいたとしたら、自分がこの世から消え去って、残されたその人がどれだけ悲しい、苦しい思いをするか……
それを考えると、僅かばかり自死に対して躊躇が生まれないだろうか。
(いや生まれて欲しいと願う)
そんな余裕がない状況であることはわかるつもり。ただ、もし冷静になれるなら、自分の大切な人もきっと
「生きているだけでいい」
とそう思っていることを少しだけ考えて欲しい。
(もう一度言う。そんな余裕がない状況もわかる…… けど)
だから、ハードルを限界まで下げよう。
軽度なら松岡氏の言う「ミニ引退」(社会人なら休職)をして、ゆっくり休んだり、無理をしない範囲で趣味などの楽しいことに取り組んでみたらどうか。
仮に鈴木氏が言う「ゼロどころかマイナス」のような状況であっても
「生きているだけでいいんだ」
と多くを求めずに気持ちを楽にすることができれば、何か行動できただけでも少しずつ上向く糸口がつかめるかも知れない。
「病気になってよかった」
と口に出して言うことは憚られるが、経験者は皆病気の経験を活かそうと前向きに生きているはず。
私は専門家ではないので、容易くアドバイスはできないが、心を楽にする本を紹介して、少しでも苦しんでいる人の手助けができればいいな、と心から思う。
(意外に、というか実は、現在進行形で辛い自分のためだったりして・・・)
当然、池江璃花子選手には完全復活を心から応援したい!!